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概要
染液を作り染めるものを入れ、昇温していく過程で染色を行う手法です。
酸性染色の最も基本的な技法です。しかし弊社では、寸胴鍋などを使用して染色する場合(ホビーや、業務でも本格的な染色機を用いない場合)には高温開始法をおすすめしております。特に羊毛では高温開始法をご検討ください。
撹拌が容易でムラになりにくい物、例えばナイロン製のボタンなど『プラスチック染色』のような場合ではこの手法が良いでしょう。
染色方法
染液を作る
染色層に水を張る
被染物を入れた時にきゅうくつにならない程度のゆとりある大きさの寸胴鍋などをご用意ください。
続いて水を入れます。被染物の重さを量り、その30倍~200倍の水を入れてください。
染色時に、被染物の下部が鍋の底に接するようなゆとりない状態ではムラになります。生地など密度の高いものでは30倍から100倍、羊毛ワタやカセ糸などかさ高なものでは200倍くらいでゆとりある状態になると思います。被染物に応じ調整してください。
尚、この水の量に対し染色助剤を量りますので、水の量はしっかり計量しておきましょう。
※まだ水に被染物を浸さないでください。
※1)浸透剤 U01を入れる
目的:被染物(染色素材)に染液をしっかり浸透させるために使用します。業務・ホビーともに必須です。染色用助剤(弊社品では『浸透剤 U01』)が望ましいですが、ホビーでは家庭用の食器用洗剤などで代用しても問題ございません。
使用量:製品マニュアルをご確認ください。
浸透剤 U01-10(非イオン界面活性剤)【ご使用方法・ご使用上の注意】 – 染彩-SomeIRO
その他参考:
※2)均染剤 U03を入れる
均染剤は、染色濃度に応じて必要量を量ります。
使用量:淡い色ほど多く入れます。詳細は製品マニュアルをご確認ください。
均染剤 U03-5(酸性染色用)【ご使用方法・ご使用上の注意】 – 染彩-SomeIRO
※3)染料を入れる
染料は、別で溶かしたものを併せてください。染色層に張った水に染料を粉のまま入れても混ざりません!
※4)初期酸を入れる
酸性染色では染着速度を酸でコントロールします。染料濃度に応じた酢酸あるいは蟻酸を入れてください。
被染物(染めるもの)を入れ染色開始
被染物を水でよく濡らし軽く絞ります。水道の蛇口から出る水で直接濡らしても良いですし、バケツなどに溜めた水で濡らしても良いです。被染物に水が染み渡り、はじきがないことを確認しましょう(水の浸透が悪い場合は前処理を行いましょう)。
問題がなければ染液に被染物を投入します。5分ほどなじませたら温度を上げていきます。
※5)昇温時間の調整
温度を上げ始めてから沸騰するまでの時間を調整します。
濃色はムラになりにくいので早めの昇温でも結構です。中色~淡色ではムラになりやすいのでゆっくりと昇温します。
温度計で1℃上がるのに要した時間を計ります。例えば30秒で1℃上がったとします。もし淡色であれば昇温が早すぎてムラになりますので、1℃上がるのに1分以上となるように火力を調整します。
撹拌(混ぜる)
昇温中そのまま放置したのではムラになってしまいます。ムラを防ぐには撹拌を行います。
この時、ただクルクル同じ方向に回すだけでは意味がありません。
ムラは次の要因で生じます。
- 温度差
- 染液との接触機会差
この差を少なくすることを心がけ撹拌します。
温度差の解消
多くの場合で鍋の底面を熱すると思います。その場合、温度差は底面と水面で生じます。被染物の下に熱がこもるので、これを無くします。被染物を上下に返したり、被染物を端に避け、染液をかき混ぜたりします。
染液との接触機会を均等に
染色が進むと染料は被染物に吸着され、染液中の染料濃度が低くなっていきます。
撹拌しない場合、被染物の表面だけ染液との接触機会が多いので濃く染まり、内部が染まらないことになってしまいます。
これを防ぐための撹拌を行います。
- 被染物を棒などで染液の外に出し、被染物が含んでいる染液を切る(被染物中の染液をしっかり入れ替えるイメージ)
- 被染物を鍋の側面に当て、棒などを使って被染物を押し潰すような動作(スポンジを潰して水を追い出すようなイメージ)。→潰した被染物を優しく広げ、新たな染液を中に送り込むような動作(スポンジは勝手に元の形に戻ろうとしますが、被染物は自力で戻りませんので、潰すばかりでなく広げてあげる)。
上記のようなイメージで撹拌すると良いでしょう。
尚、低温域でムラを生じてしまった場合、高温域では染液中の染料は減っていますので、後半頑張って撹拌したところでその差はうまりません。染料濃度が高い中色~濃色では、判りにくい程度までばんかいできるかもしれませんが、淡色では難しいでしょう。従って、低温から高温までの間、この撹拌作業をサボらずに行いましょう。
※6)追酸
沸騰後10分ほどしたら追酸を行います。
その量は、残液の様子で調整します。染液に染料が多く残っている時に多量の追酸を行うとムラになります。
1回目の追酸は初期酸と同量、2回目はその倍と増やしていくと良いでしょう。
染液に染料が残っていない様子の場合は省略してもよいですが、初期酸と同量程度を1回追酸しておくのも有効です。
追酸は被染物に直接掛からないよう、染液から被染物を出した状態で行いましょう。
※排液・水洗
追酸後、沸騰状態で10分から30分経過し、染液中の染料が残っていないようであれば染色終了です。排液して水洗しましょう。
後処理(必要に応じ)
ソーピング・色止め
追酸しても染料が残ってしまったような場合は、染料が過剰で上被りしており堅牢度が悪い可能性があります。ソーピングを行いましょう。
また、染料濃度が濃い色では必要に応じ色止めを行うと堅牢度が多少あがります。
参考
酸性染色の基本的な考え方
酸性染色では入れた染料すべてが被染物に吸着し、残液に染料が残らないように設定するのが基本です。
沸騰後、10分15分ほどですべての染料が無くなるくらいが理想です。
早くに無くなってしまう場合
- 初期酸を減らす
- 均染剤を増やす
染料が早くに無くなってしまう状況は、染色ムラが生じやすい状況ですので調整しましょう。
淡い色など染料が少ない場合は、初期酸を減らしても沸騰まで染料が残らない場合があります。そのような場合は均染剤を増やします(均染剤を使用する場合でも初期酸を最低0.2%程度は入れましょう)。
染料が残りすぎる場合
- 初期酸を増やす
- 酢酸から蟻酸に変える
- 均染剤を減らす(入れない)
- 染料が多すぎるので適量に調整する
※残液の見方ですが、染料の色目や量により、水のような『まっ透明』にはなりません。じゃっかんは色が残ります。どの程度の色残りで『全部染着した』と判断するのかは、経験で分かるようになります。